陰ながらイスラエル社会で存在感を放つフィリピン人
去年の夏、普段住んでいるエルサレムからテルアビブに行って宿をとり、観光しようと決めました。
朝起きて、お気に入りのアイスクリーム屋さん「アニータ」(ピスタチオ味がおすすめ)に行ってアイスクリームを食べ、満足したところで店を出て歩き出すと…
べちゃっ!
と音がしたと思ったら、なんと鳩のフンを頭上から思いっきり被ってしまいました。
アニータ。この後悲劇が……
これから観光なのに……とショックで固まってしまった私に
「こっちにおいで」
と通りの角にあるベンチから合図を送ってくる女性がいました。
アジア人女性で、隣には車椅子のかなりご高齢の白人男性が宙をぼーっと眺めています。
言われるがままに行くと、彼女はカバンからウェットティッシュを取り出して、丁寧に私の頭を拭いてくれ始めました。
ウェットティッシュが全てなくなると
「ちょっと待ってて」
と言って近くにある家まで戻って、新品の赤ちゃん用のウェットティッシュを1パック丸ごと持って来て、髪の毛にこびりついている鳩のフンを丁寧に拭き取ってくれました。
拭いてくれながら、
「私は日本には住んでたことがあるのよ、日本はいいところよね」
と言う彼女。
びっくりするくらい綺麗になったところで、「持っていって」と残りのウェットティッシュを手渡され、にこやかに送り出してくれました。
押し付けがましさがなにもない、自然な親切心。
もっとちゃんとお礼をするべきでした。
話しているときにフィリピン出身と教えてくれた彼女はイスラエルではよく見かける、介護士として働くフィリピン人。
フィリピン人たちはイスラエルで働く最大の外国人コミュニティー。約30万人が働いていると言われています。彼女たちの多くは、イスラエルに来て介護の仕事に着きます。
車椅子を押していたり、支えが必要なお年寄りと腕を組んで歩いている光景を見ることがあります。
写真元:The New York Times
そんな彼女たち、この複雑なイスラエル社会で愛されているらしい。
イスラエルは中東と言えども文化的には西洋社会。
女性が働くのも当たり前ですし、子供が親の面倒をみることは必ずしも必須とは考えられていません。
そこで活躍するのがフィリピン人の介護士。
介護の仕事というのは大変です。
身体が不自由になっているお年寄りであれば、下のお世話をしたり身体全体を支えたりしなくてはなりません。
そういうのを厭わず安い賃金で一生懸命に介護の仕事をするフィリピン人の評判はとても良く、イスラエル人の高齢者との間に言葉にし難い絆が生まれるケースが多くあるようです。
フィリピン人はアジア文化特有の高齢の方を敬う傾向があり、感情面でも「あったかい」と思われるよう。
さらにイスラエルの高齢者にはホロコースト生存者が少なくありません。生死をさまよう経験は、ある意味で人を鉄のように強くし、時には頑固にしてしまいます。
そんな彼らと屈託のないフィリピン人の相性が非常にいいみたいなのです。
なんだかわかりますよね。
本人が亡くなると、一緒に悲しみ、別れ際に鶴の折り紙の置きものを作って家族に渡す人も多いとか。
イスラエル元首相のシモン・ペレスの介護もフィリピン人の若い男性がしていました。
そんな彼らに市民権を!という声もあるほど。まわりを敵国に囲まれ、警戒心が強いイスラエルでそういう声が上がるのは結構オドロキなことです。
2014年にはイスラエル版のリアリティ音楽オーディション番組Xファクターでイスラエル人介護士が優勝して話題になりました。
写真元:The Times of Israel
カンヌのパルムドールを獲ったイスラエル映画『ジェリーフィッシュ』にフィリピン人の介護士と気難しいおばあさんのお話が出てきます。イメージが掴めますのでおススメです。