イスラエルいろいろ

イスラエルってどんなところ? ふだんだれがなにして暮らしてる? そんなギモンを掘り下げてみました。ユダヤ人の歴史・文化にも踏み込んでいきます。

#Thats Harassement『それはハラスメントです』 ー#Me Tooムーブメントを後押しする、イスラエル発・米リメイクショートムービー

 『それはハラスメントです』(原題:『That's the Harassment 』)というショートムービーを知っているでしょうか。

もはや伝説となっているアメリカのコメディードラマ『フレンズ』のロス役でおなじみのデイヴィッド・シュワイマーがイスラエル人女性監督シガル・アビンと共同プロデュースした作品として今話題になっています。

 

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写真引用元:Cosmopolitan.com

 

もともとシガル・アビン監督がイスラエルで2015年にヘブライ語版オリジナルを発表したところ、英語でリメイクしようという話になり、ほぼ同じ内容で英語版が製作、2018年1月にリリースされました。日本語の字幕版はまだですが、そのうちに出ることを期待したいと思います。(英語版は専用のFacebookページから視聴可能。)

 

一編ににつき約10分以下のショートムービー6編からなる本作品は、全て実話をもとに作られています。タイトルは『俳優』『同僚』『上司』『医者』『政治家』『写真家』で、ずばりテーマそのものを表しています。

 

全て途中で切れるこのないワンショットで撮影されており、扉越しや窓越しにまるで視聴者が盗み見ているような感じで撮影されています。

 

描き方が生々しく不快感を感じずにはいられませんが、それがこの作品の力でもあります。

 

映像が終わると、真っ黒なスクリーンに『それはハラスメントです』というテロップが出て終了。

 

すべてのストーリーに共通して、セクシャル・ハラスメントをされる側とする側の間に何らかの役割関係があり(スタイリストと俳優、インタビュアーと政治家、患者と医者など)、最初はお互いただその持ち場に沿ってことが進んでいるのに、あるときに一線を超える瞬間があります。

 

ハラスメントをされている方も一瞬なにが起こっているのかわからないという戸惑いがあり、これは行き過ぎたスキンシップなのか、それともセクハラなのかと図りかねる。その瞬間にも、被害は続いていきます。

 

確実なのは、されている当事者が不快を感じていること。

 

している方は自分の権力や立場を利用しながらところどころでセクハラをし、しかもそれが意図的なのか無意識にやっているのか微妙な感じでおわります。

 

例えば、デイビッド・シュワイマー自身が俳優として出演している『上司』という一編。

 

女性の部下が上司である男性に呼ばれて、PC上のテクニカルな問題を解決するために呼ばれます。一通り問題が解決したところで、上司はもう夜遅いから車で送っていくよ、と提案しますが、部下の女性は戸惑いながらも断ります。そこから上司は入社したばかりの女性に対して、この会社はどうか、何か不満はないかなどと相談にのってあげるような形でやさしく話かけます。

 

女性はなにもかも順調でこの会社には感謝していると話しますが、その間に上司はちょっとずつ身体的な距離を縮めて、突然彼女にキスをします。女性は不快に感じそのことを告げますが、上司は「不快に感じたならごめん、そんなつもりはなかったんだ」と言い、「自分たちの関係に問題はないよね?」と言って仲直りのハグを無理やりして、終わります。

 

すべては上司のフレンドリーなムードの中で進んで行くので始めと終わりだけを見ると、別に何の問題もなかったかのように見えます。しかし、女性の中にはこの出来事の前後では明らかにものごとをそれまでと同じように捕えられなくなるようなハラスメントを受けています。

 

だれも「これはセクハラですよね」とか正面きって言う人はでてこない。実際ことが起きるのはいろいろな状況にカモフラ―ジュされていることが多く、捕えにくいところで起きているからです。

 

この短編はそんな微妙な場面で起きているセクシャル・ハラスメントを見事に見せてくれます。

 

オリジナル版はハリウッドのハーヴェイ・ワインスタインが数々の女優にセクハラやレイプをしたと訴えられる前に製作されましたが、同スキャンダルとそれに続く#Me Tooムーブメントによって2017年末から一気に現実味を帯びてきました。

 

シガル・アビン監督はインタビューで、

「まわりの女性友達からたくさん似たような経験の話を聞いてきた」と言い、製作に思い至ったそうです。

 

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 写真引用元:Quartz at Work

 

 

また女性の視聴者から「わたしの感じていたあの不快な出来事はセクシュアル・ハラスメントだったんだ」とか、男性から「意識していなかったけど、自分がしたことはセクシュアル・ハラスメントだったんではないか」という声があったといいます。

 

また被害を受けた人には実際この作品を見るのは生々しいので見ることができない場合もあるとのこと。

 

イスラエルは意外にも女性の権利が守られている国で、セクシャル・ハラスメントを罰する法律があります。欧米ほど女性の立場が強いわけではないですが、日本と比べると明らかに強いです。

 

先日もイスラエルのテレビ局がレイプ被害を訴えている伊藤詩織さんを取り上げ、本人も中継で登場するなど、日本ではスルーされがちな女性問題に対して関心が高いことがうかがえました。

 

#Me Tooのムーブメントで、女性たちが次々と声を上げ始めています。本作品もそのムーブメントを後押しする作品となるでしょう。

 

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*イメージ:@thatsharassmentより

 

 

参考記事: ‘This Israeli TV Director Is Tackling Sexual Harassment in the Trump Era’,Haaretz, May 12 2017