イスラエルいろいろ

イスラエルってどんなところ? ふだんだれがなにして暮らしてる? そんなギモンを掘り下げてみました。ユダヤ人の歴史・文化にも踏み込んでいきます。

2018年3月末までにアフリカ移民に国外退去を命じたイスラエル政府

 f:id:apriapricot:20180204043354p:image 

2018年1月、ネタニヤフ首相がアフリカから来ている移民に対し3ヶ月以内にイスラエルから立ち退くよう命じました。そして先日、3月末までにイスラエルを出ない場合4月1日から強制収監もしくは強制的に退去させると通告を始めました。

 

現在国内に約3万8千人のアフリカ移民がいるとされていますが、そのうち約70パーセントがエリトリア人、残りの20パーセントがスーダン人で、彼らのほとんどが2006年から2012年の間にイスラエルに到着しています。

 

とくに2010年には移民の波が押し寄せ、毎月1,300人の難民がシナイ半島から国境を超えてイスラエルにやってきました。それを止めるため2014年にイスラエルが240キロメートルにも及ぶ電流フェンスをシナイ半島のエジプトとの国境に敷きます。

 

エリトリアの難民は長年続く独裁政治の下で、下手をすると何十年間も続く徴兵から逃れるために難民となるケースが多く、一方スーダンの難民は国内で起きた虐殺や内戦から逃れて来た人たちです。

 

ネタニヤフ首相は彼らを「侵入者」と言いきり、彼らは難民ではなく経済的理由でイスラエルに来ていると主張しています。

 

また、アフリカ系移民が住む地域はテルアビブの南の貧しい地域に集中しており、保守的な人々が彼らを治安の悪化の原因とみなしていることも政府の決定を後押ししていると見られます。

 

イスラエルは難民に対して閉鎖的な国として知られています。

 

難民への対応をEUと比べると、その差は一目瞭然です。EUで難民申請したエリトリア人のうち90パーセント、スーダン人の55パーセントが難民として認められています。一方、イスラエルは何千件という難民申請に対して10人のエリトリア人、そしてなんとたった1人のスーダン人を難民として認めているのみです。

 

難民申請をしている人は一時的なビザを受けて、数カ月ごとに更新しなければなりません。その更新ももうできなくなります。

 

もし自らイスラエルを出て行く決心をしたなら、3,500ドルが政府から支給されるとの条件つきですが、もし命令に従わなかった場合、待っているのは収監もしくは強制退去です。

 

 

行き先はルワンダとウガンダ?

 

もしイスラエルを出た場合、どこへ行くのでしょうか?

 

はっきりとした国名は公表されておらず「過去10年で飛躍的に発展した安定している国」とだけ言われています。

 

メディアによればその国はルワンダとウガンダだと言われています。

しかしルワンダもウガンダもこれを否定しています。(ある情報によればルワンダとイスラエルは内密に契約をかわし、イスラエルが難民1人につき5,000ドルを支払う用意があるとのこと)。

 

そんな中すでにイスラエルから支給金を得て、イスラエルからルワンダへ渡ったエリトリア人男性がいます。

 

その男性は3,500ドルを支給されて、2015年にルワンダへ行きました。ルワンダの空港につくやいなや、イスラエルから発行されていた身分証明書が没収されます。

 

その後他の9人のエリトリア人と、とある「ゲストハウス」に連れて行かれた彼は、身分証明書がないと見つかったら危険だからと言われて外出を禁じられます。

 

二日後、急にウガンダへ行くことを告げられ、そのために150ドルを払え、と言われます。そして国境に来るとまた150ドル払わされます。

 

ウガンダに着いたら今度は不法移民として収監されてしまいます。

 

そして結局自国のエリトリアへ強制送還されそうになったところ、お金を払ってケニアに密入国しケニアで現在難民申請をしているとのこと。

 

つまり、自ら名乗りを上げたところで彼らの身の保証など誰もしてくれないということです。

 

 

声をあげる人たち

 

イスラエル政府の決定に対して国内外で反対の声が上がっています。

 

スーザン・シルバーマンというエルサレムの女性ラビ(アメリカの女性コメディアン、サラ・シルバーマンの姉)が第二次世界大戦のアンネ・フランクになぞらえて、アフリカの難民を家にかくまおうというキャンペーンをはじめました。エルサレムにあるホロコースト記念館も反対の声をあげています。

 

また、エル・アル航空のパイロットたちも難民を移送するフライトをボイコットするよう呼びかけています。

 

さらに35人の著名なイスラエル人作家が署名し、難民を強制移送させないように呼びかける書簡が政府に送られました。その中にはエトガル・ケレット、アモス・オズ、デビッド・グロスマン、アブラハム・B・イェホシュアなど世界的に知られている作家が含まれています。

 

 

イスラエルはそもそも国を追われた人たちが集まってできています。自分たちの祖先が経験してきた苦い過去の歴史はユダヤ人たちに刷り込まれています。血を血で塗るような歴史を経て、パレスチナ人の犠牲の上に成り立っているイスラエル。一体その足場はどこにあるのでしょうか。

 

4月まであと2ヶ月を切りました。

 

はたして抗議の声は届くのでしょうか。

 

 

 

参考記事:“Israel begins handing out deportation notices to African migrants” by Tamar Pileggo and Michel Buchner, 4 Feb 2018, the Times of Israel, “African Deportations are Creating a Religious Controversy in Israel” by Emma Green, The Atlantic, 30 Jan 2018  “Israel orders African refugees to leave country within three months or face prison”, Independent, 2 Jan 2018,  “Amos Oz, David Grossman, Etgar Keret Implore Netanyahu: Do Not Deport Asylum Seekers” by Ilan Lior, Haaretz, 12 Jan 20181,” 10 key questions about Israel’s African asylum seeker controversy” by Melanie Lidman, The Times of Israel 2 Feb 2018

 

写真引用元 : The Euro-Mediterranean Human Rights Monitor